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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.16
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第16回 『サード少年の3度の手術に関わって』 (その2)
                     イラク
※本文は2003年7月12日に行った世田谷区立経堂小学校PTA 単位PTA研修会での講演録に、若干、加筆修正させていただいた。

「イラクの子供たちを救う会」

「イラクの子供たちを救う会」
 私たちは1991年4月に「イラクの子供たちを救う会」というNGOを東京で発足させました。東京在住のイラク人らが私のところに来られたのがきっかけでした。当時、イラクは湾岸戦争の後で、過酷な経済制裁が課されていきました。イラクの弱者、すなわち乳幼児やお母さんや老人らは、本当にひどい状況になっていきました。経済制裁の本来の目的は勿論、弱者には支援し、ひどい政権に対してはこれを弱体化させるために行うわけですが、実態は逆だったのです。
 「イラクの子供たちを救う会」について少しお話します。この会が作られて、私はイラクに13回出掛けました。ほとんど毎回いろんな方と一緒にイラクに行って救援活動を行ったわけです。この会は国際ボランティア貯金から多いときには1年に1000万円以上のお金をいただいておりました。第1回目は湾岸戦争後の1991年4月の会が発足した後の6月は、朝日・産経の新聞記者らと一緒にまいりました。何を持っていっていたかというと、粉ミルク、抗生物質(とりわけ輸液用材)、血液などで、このようなものがイラクの弱者には不足していました。また、イラク医療協会々長でバグダード一の眼科大病院の院長、Dr.サードゥーン氏は、どんな目薬でもいいから沢山持ってきてくれないかと言われましたので、次回の訪問時にはそういったものも配布しました。イラクの隣のヨルダンの首都アンマンの薬問屋、ムスタウダ・アドウイヤ・アッシャルク(オリエント・ドラッグ・ストア、イラクの弱者に対する救援の気持の強いパレスチナ人若社長)で薬などを買って、陸路を17,18時間かけてバクダッドへ行き、イラク赤新月社経由でそれらをいろいろな病院に配布しました。イラクのチグリス・ユーフラテス両河の川沿いには、北から南まで、大中小の都市がありまして、そういうところの小児病院、母子病院へ医薬品などを届けていたわけです。病室まで出向きましたので、ひどい状況を見ることはたびたびでした。私たちが訪ねたときに丁度息をひきとるという子どもを何人も見ました。イラクへ行って、もっとも弱い者の命がいかに大事にされていなかったかということを今でも痛切に感じております。病院の院長さんもどうすることもできない。訴える以上のことは何もできない。なにか政治的な批判をすれば酷いめにあうというお国柄でしたから。そのようななかで救援活動をやっておりました。
 ところで「イラクの子供たちを救う会」の活動をしていた1994年にサード君と知り合いました。
 救援活動を終えて、バクダードのホテルに戻って16時半頃から昼食をとっておりましたところ、そこへ、痛々しい感じのサード君、父親のムハンマド・アルズバイディ氏、相談役のリチャード・ナブハーン医師が突然やってこられたのです。
話を戻しますが、イラクでは夏は50度を超えるような温度になることがあります。夏にしばしば出かけましたが、毎日48、49度くらいまで上っていました。救援活動はできるだけ朝早く出て14時半までには終えないといけない。14時半になると病院の院長さんはお昼休みのために一旦、家に帰るのです。ですから、それまでに必ず終えてくれと赤新月社の方から言われていました。赤新月社、これは日本で言えば赤十字社にあたりますが、そこにまず行って許可を得、外務省のスタッフも加わって各病院に一緒に回るのですが、赤新月社は「14時半までに終わらないと困ります」と、本当に一方的におっしゃる姿勢でした。文句を言ったりすると、そういうことだったら支援はいらないという姿勢をとる国でしたから、私はできるだけあちらの立場になって活動するようにしていました。

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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