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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.5
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第5回 『アメリカの「同時多発テロ事件」後に思ったこと』 (その1)
                          −イスラエル

 まずはじめに、9月11日のアメリカで起った同時多発テロによって犠牲となられた多くの方々に対し、心から哀悼の意を表したい。そしてまた、今回のテロの首謀者と見なされているオサーマ・ビン・ラーディン、並びにタリバーン政権に対するアメリカ等の攻撃によって、何の罪もない市民からの犠牲者が出ないための努力が今後一層徹底して払われるよう、心から懇願するものである。

 テロ実行犯全員がムハンマド・アター(細かいことになるが、マスコミ報道の‘アタ’、‘アッタ’は誤り)をはじめとして、すべてアラブ・イスラム諸国出身者であるとのニュースを耳にした時、平素より中東・北アフリカ地域の人たちと積極的に関わってきた私には少なからずショックがあったが、だが同時に、パレスチナ人モスリムがイスラエルにおいて、建国以来のユダヤ人の傲慢性や高姿勢に抗議・反発して、これまでたびたび爆弾を体に括りつけてユダヤ人側に突進するというジハード(英語のholy warから聖戦となったのであろうが、この語は日本ではかなり限られた意味としてしか使われていないように思う。イスラムの第6番目の柱と言われるジハードの全体的意味は、アッラーのもとでアッラーのためにも自ら勇気を奮い立たせて悪と戦う個人的ないしは共同しての行為であるが、戦いであるから、やむを得ない場合には武力の使用も許されることになる。)としての殉教死までやり遂げてきたが -これらは視点を変えれば正にテロ行為と見なされよう- それと同じ行為が、今度は何と言っても最終的にはユダヤ人側を容認することになっていた世界最強の国、アメリカを舞台にしてなされることになったのではないか、私にはかような思いがまず心を走った。

 話は変わるが、私は物心のついた頃には、教会ではたびたび、神によって選ばれた民、ユダヤ人についてのお説教を聞いていたように思う。かような神父さんのお説教からイスラム・キリスト教学者間の選民思想を巡る論争まで、いずれにせよ20世紀の半ばまではアカデミックで神学的な議論の域は出なかったようであるが、1948年、ザイオニズム(シオニズム)に裏打ちされた、中東のどの国にも負けないような強力な独立国家を目指すイスラエルが建国されるに至っては、国家の精神的支柱であるユダヤ人の選民思想は極めて政治地理学的色彩の濃いものとなったのである。
 
 一方、凡そ1千年間この地に住み続けてきたパレスチナ人から見ると、このユダヤ人国家誕生は、ザイオニズムというパレスチナ人に対するfanaticalで一方的な植民地化と映った。ユダヤ人も自分たちと全く同一の絶対的な神を信じているのにこんなことが出来るとは...。

 パレスチナ人・アラブ人が心から信奉しているアッラーが、ユダヤ人もパレスチナ人・アラブ人も更には他の民族も、ご自身のもとで皆が平等になっていく努力をするよう望んでおられるのは明明白白であり、パレスチナ人もユダヤ人に正にこのことを望んでいるのである。
 
 既述したザイオニズム・イスラエル国家の姿勢は、自分たちの国は飽くまでも神によって選ばれたユダヤ人のための国家であって、自分たちの意に沿ってパレスチナ人・アラブ人、そして日本人までもが国造りに協力してくれるのであれば、それは大歓迎だという。自分たち以外は第二のユダヤ人、第三のユダヤ人、となって関わってほしいというのである。


つづく

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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